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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)8037号 判決

原告 三方磁材株式会社

右代表者代表取締役 長谷川正一

右訴訟代理人弁護士 柳田幸男

同 野村晋右

同 秋山洋

同 下門敬史

同 大胡誠

同 高橋利昌

同 柳田直樹

被告 日東機器株式会社

右代表者代表取締役 北村均

右訴訟代理人弁護士 大政満

同 石川幸佑

同 大政徹太郎

被告補助参加人 株式会社 坂本技研

右代表者代表取締役 坂本哲夫

右訴訟代理人弁護士 池田清英

主文

一  被告は、原告に対し、金二四〇七万一九〇〇円及びこれに対する昭和六二年五月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とし、参加によって生じた費用は全部補助参加人の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金四九一五万四九一〇円及びこれに対する昭和六二年五月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 東京フェライト製造株式会社は各種フェライト磁石、磁性材料の製造販売等を目的とする株式会社である。

(二) 原告は、酸化鉄粉・磁性材料・純鉄粉の製造販売等を目的とする株式会社である。

2  本件請負契約の締結

(一) 本件請負契約の締結

東京フェライト製造株式会社は、被告との間で、昭和五四年四月一八日、東京フェライト製造株式会社がその敷地内に所有するスプレードライヤー(乾燥機。以下「本件スプレードライヤー」という。)について、請負代金二四九〇万二〇〇〇円で被告が右スプレードライヤーを磁粉等の造粒機に改造するとの請負契約を締結した(以下右請負契約を「本件請負契約」といい、本件請負契約に基づく改造工事を「本件改造工事」という。)。

(二) 性能についての約定

東京フェライト製造株式会社と被告とは、本件請負契約において、本件スプレードライヤーを次の性能を有するものに改造することを合意した。

(1) 処理量

固形分六五パーセント及び水分三五パーセントの原料(ハードフェライト)を一時間当たり二七〇リットル処理できる。

(2) 回収率

製品(乾燥品)の希望粒度分布を五〇ミクロンから一五〇ミクロンとし、原料の固形分中九九・八パーセントを製品の固形分として回収できる。

3  本件請負契約上の地位の譲渡

東京フェライト製造株式会社は、原告に対し、昭和五四年九月ころ、本件スプレードライヤーとともに本件請負契約上の地位を譲渡し、被告は、そのころ右地位の譲渡を承諾した。

4  瑕疵の存在

本件改造工事後、原告は被告から本件スプレードライヤーの引渡しを受け、試運転が行われた。しかし、試運転の結果、次のような欠陥が存することが判明した。まず、運転を行っているうちに本件スプレードライヤーの本体内壁面に造粒品の原料が大量に付着し、これがたまると落下してスプレードライヤーの下部にある製品取出口を閉塞してしまうため、運転を中止して本体内部の掃除を行わなければならなかった。次に、アトマイザーがある一定の回転数に達すると共振が生じ、運転を中止せざるを得なかった。右のような欠陥のために本件スプレードライヤーは前記約定の性能を到底満たすものではなかった。

5  瑕疵修補債務の履行不能

原告は、被告に対し、右瑕疵の修補を請求し、被告は試運転を繰り返しながら修補工事を行ったが、右瑕疵は遂に改善されるに至らなかった。よって、本件スプレードライヤーを前記約定の性能を有するものに改造することは、社会通念上不能というべきである。

6  損害

原告は、本件請負契約に基づく本件改造工事に伴い、次の各金員合計金四九一五万四九一〇円を出捐し、同額の損害を被った。

(一) 本件スプレードライヤー工事費として金二五五九万九四〇〇円

(二) 本件スプレードライヤー付属設備工事費及び部品購入費として金一五〇七万〇五一〇円

(三) その他の基礎工事費として金八四八万五〇〇〇円

7  催告

原告は、被告に対し、昭和六二年五月一八日到達の内容証明郵便で右損害金の支払を催告した。

よって、原告は、被告に対し、本件請負契約上の瑕疵修補債務の履行不能による損害賠償請求権に基づき、右損害金四九一五万四九一〇円及びこれに対する催告の日の翌日である昭和六二年五月一九日以降支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

(被告)

1 請求の原因1(当事者)の事実は認める。

2 同2(本件請負契約の締結)の事実について、(一)(本件請負契約の締結)は認め、(二)(性能についての約定)は否認する。

3 同3(本件請負契約上の地位の譲渡)の事実は認める。

4 同4(瑕疵の存在)の事実のうち、本件改造工事後原告が被告から本件スプレードライヤーの引渡しを受け、試運転が行われたことは認める。

5 同5(瑕疵修補債務の履行不能)の事実は否認する。

6 同6(損害)の事実は不知。

7 同7(催告)の事実は認める。

(補助参加人)

1 請求の原因1(当事者)の事実は認める。

2 同2(本件請負契約の締結)の事実は不知。

3 同3(本件請負契約上の地位の譲渡)の事実も不知。

4 同4(瑕疵の存在)の事実のうち、本件改造工事後原告が被告から本件スプレードライヤーの引渡しを受け、試運転を行ったことは認め、その余の事実は否認する。試運転は昭和五五年三月八日に行われ、その際には原告主張に係る本件スプレードライヤーの本体内壁面に造粒品の原料が大量に付着するという問題とアトマイザーの共振問題とは全く生じていなかった。原告は、本件請負契約当時製品(乾燥品)の希望粒度分布を五〇ミクロンから一五〇ミクロンとしていたのであるが、右試運転後被告を通じて補助参加人に対し、製品(乾燥品)の粒度分布を二〇〇ミクロンから三〇〇ミクロンとすることを希望してきた。粒子が大きくなれば、粒子の飛距離が長くなり、壁面への付着が当然問題になる。そこで、補助参加人は、原告に対し、本件改造工事後の本件スプレードライヤーがそのような大きな粒子の製品を製造するように設計された機械ではないことを説明した。しかし、補助参加人としては原告の立場を考え、原告の要望に沿うように努め、専門家の立場から色々工夫し、アドバイスをしていた。それは本件改造工事後の本件スプレードライヤーに瑕疵があったためではない。また、原料の回収率にしても、本件請負契約においては、本件スプレードライヤーにバッグフィルター(サイクロンで回収できなかった細かい粒子を布のフィルターを通すことにより回収するとともに公害を防止する装置)を付けることが前提になっていた。ところが、原告は、補助参加人になんら相談することなしに、右バッグフィルターの代わりにスクラバーを設置した。原告が回収率に重きを置いていなかったことは、原告自ら右のような変更を行ったことからも明らかである。

5 同5(瑕疵修補債務の履行不能)の事実は否認する。

6 同6(損害)の事実は不知。

三  抗弁

(被告)

1 民法六三七条所定の除斥期間の経過

(一) 被告は、原告に対し、本件改造工事の終了後遅くとも昭和五四年一〇月末日までには本件スプレードライヤーを引き渡した。

(二) 右引渡しの日の翌日である昭和五四年一一月一日から起算して一年が経過した。

2 商法五二二条所定の商事債権の消滅時効

(一) 被告は、原告に対し、本件改造工事の終了後遅くとも昭和五四年一〇月末日までには本件スプレードライヤーを引き渡した。そのうえで、原告、被告及び補助参加人は、昭和五五年三月八日本件スプレードライヤーの試運転を行った。

(二) 右試運転の日から起算して五年が経過した。

(三) 被告は、本訴において右時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実について、(一)は否認する。

2  同2の事実について、(一)のうち、原告、被告及び補助参加人が昭和五五年三月八日本件スプレードライヤーの試運転を行ったことは認める。

五  再抗弁

1  原告は、被告に対し、昭和五五年三月八日の本件スプレードライヤーの試運転直後から本件スプレードライヤーの瑕疵を指摘し、その修補を請求している。

2  昭和五五年三月の本件スプレードライヤーの試運転後、被告は本件スプレードライヤーの改造工事に瑕疵があることを認識し、その改善のために種々の対策を講じ、各種の工事を行ってきた。さらに、昭和五八年九月には補助参加人が本件スプレードライヤーをノズル式に改めるための工事の見積りを行い、被告が東京フェライト製造株式会社宛に見積書を提出した。よって、被告は、昭和五五年三月八日を起算日とする消滅時効については、その援用権を喪失したものというべきである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実はいずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本件請負契約について

1  請求の原因1(当事者)及び2(本件請負契約締結)の(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  請求の原因2の(二)(性能についての約定)の事実について判断する。

《証拠省略》によれば、造粒機であるスプレードライヤーを使用して造粒品を製造する場合には、スプレードライヤーが本来の機能を発揮するならば、単なる乾燥機を使用して製造する場合に比して造粒品の品質が良いというのみならず、製造工程における省力化に資すること、ところで、造粒品を製造する際に、製品の固形分を原料の固形分で除することによって求められる原料回収率(歩止まり)が悪くなると、製造の効率が悪くなり、製造原価の増大を伴うばかりでなく、空中等へ原料が拡散していることを意味するが故に公害の発生原因にもつながっていることを意味すること、造粒機であるスプレードライヤーを使用して造粒品を製造する場合九九パーセントの原料回収率を想定することはなんら不合理なことではなく、現に昭和五五年一二月当時そのような性能を有することを保証するスプレードライヤーの製品も存在したこと、本件請負契約締結の際に、東京フェライト製造株式会社代表取締役長谷川正一としては、右に述べたところから、本件改造工事後の本件スプレードライヤーが、本件改造工事以前のものに比して処理量を増大させるものであり、かつ、高い原料回収率を有するものであるか否かに関心を持っていたこと、補助参加人は、被告の担当者を通じ、東京フェライト製造株式会社が処理率及び原料回収率に関心を持っていることを知っており、本件スプレードライヤーの改造工事の商談を進めるために、昭和五四年二月七日、処理量として固形分四五パーセント及び水分五五パーセントの原料(ハードフェライト)を一時間当たり二五〇リットル処理できるものとし、バッグフィルターを含めて原料回収率を九九・八パーセントと見積もった「見積調査要項」と題する書面を作成し、被告を通じて東京フェライト製造株式会社に右書面を交付したこと、右書面には製品の希望粒度分布を五〇ミクロンから一五〇ミクロンとし、残留水分を〇・二パーセント前後とする旨記載されていたこと、右処理量及び原料回収率はこの段階ではまだ目標値というべき性格のものであったが、東京フェライト製造株式会社代表取締役長谷川正一の期待していた数値に合致するものであったため、東京フェライト製造株式会社代表取締役長谷川正一及び担当者は、昭和五五年三月七日及び八日、補助参加人の静岡工場において、補助参加人代表取締役及び被告の担当者とともにスプレードライヤーのテスト機で造粒の製造試験を実施したこと、その結果は良好であり、前記「見積調査要項」と題する書面に記載された見積もり内容にほぼ合致するものであったこと、そこで、本件請負契約の話が具体化し、締結に向けて手順が踏まれたこと、まず、補助参加人において、同年四月一一日、右製造試験の結果を踏まえ、製品の希望粒度分布を五〇ミクロンから一五〇ミクロンとし、残留水分を〇・二パーセント前後とすることとしたうえで、処理量として固形分六五パーセント及び水分三五パーセントの原料(ハードフェライト)を一時間当たり二七〇リットル処理できるものとし、バッグフィルターを含めて原料回収率を九九・八パーセントと見積もった「見積調査要項」と題する書面を作成し、被告に提出したこと、被告は、東京フェライト製造株式会社に対し、同年四月一七日、右書面を付して、本件スプレードライヤーの改造工事の見積書を提出したこと、右見積書には、補助参加人の製品の項中「サカモト式アトマイザー」の箇所に「処理量一時間当たり二七〇リットル」との記載があり、かつ、標題部には「No破五四―〇〇九」との記載があること、同年四月一八日、東京フェライト製造株式会社が被告に対し注文書を交付し、これに対し、被告が東京フェライト製造株式会社に対して注文請書を交付することにより本件請負契約が締結されたが、右注文書及び注文請書には「明細はすべて見積No破五四―〇〇九通り」と記載されていること、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

しかして、右認定事実に照らして考えるときは、請求の原因2の(二)(性能についての約定)の事実に副う原告代表者の供述部分にはその十分な裏付けがあるというべきである。右認定事実及び《証拠省略》によれば、請求の原因2の(二)(性能についての約定)の事実を認めることができる。《証拠判断省略》

二  本件請負契約上の地位の譲渡及び本件スプレードライヤーの引渡しについて

請求の原因3(本件請負契約上の地位の譲渡)及び同4の事実のうち、本件改造工事後原告が被告から本件スプレードライヤーの引渡しを受けたことは当事者間に争いがない。

三  瑕疵の存在について

1  請求の原因4(瑕疵の存在)の事実について判断する。

《証拠省略》により認められる次の事実、すなわち、用紙が補助参加人の商号入りであり、昭和四九年に印刷されたもので、本件請負契約当時補助参加人において業務上使用していたものと認められること、欄外に被告の担当者である門内及び木村の捺印又はサインが存すること、以上の事実に弁論の全趣旨を併せて考えれば補助参加人の作成文書として甲第四号証の成立を認めることができる。《証拠判断省略》

《証拠省略》を併せて考えれば、昭和五五年三月八日本件スプレードライヤーの試運転が行われ、程度はさておき、乾燥塔内に付着が生じたこと、右試運転後、本件スプレードライヤーについて、同年四月には共振位置変更のためシャフト、ディスク板をいったん取り外し、再度取り付ける工事が行われ、同年六月には原告代表者、被告の担当者及び補助参加人代表者が打合せを行い、ポンプの取替えとディスク板をより大きいものに交換し、ディスク板にターボブロワーを設置することを検討していること、同年一〇月に天井部付着防止用にブロワーが取り付けられ、ディスク板を交換したこと、右各工事後の同年一一月、原告代表者、被告の担当者及び補助参加人代表者が立ち合って、本件スプレードライヤーの乾燥塔内の付着状況を調べるため試運転を行ったところ、付着状況の改善を確認したものの、本体のみの回収率がまだ約七〇パーセントにとどまっていたこと、右試運転後、補助参加人が種々の改善対策を記載した報告書を被告を通じて原告に提出していること、補助参加人が右報告書の中で本件スプレードライヤーをノズル式に改めることを想定して、従前の方式との利害得失の比較に言及していること、昭和五八年九月には補助参加人が本件スプレードライヤーをノズル式に改めるための工事の見積りを行い、被告が東京フェライト製造株式会社宛に見積書を提出していること、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

しかして、右認定事実によれば昭和五五年三月の本件スプレードライヤーの試運転後、本件スプレードライヤーについて乾燥塔内の付着の問題等の解決のために種々の対策が講じられ、各種の工事が行われてきたという外形的な事実の流れ自体を否定することはできず、右の点に照らして考えるときは、請求の原因4(瑕疵の存在)の事実に副う《証拠省略》にはその十分な裏付けがあるというべきである。

補助参加人は、右各工事を行った理由として、昭和五五年三月の本件スプレードライヤーの試運転後に原告が造粒品の粒子をより大きいものに変更することを求め、その要求に沿うようにするために補助参加人が種々の技術的な措置を試みたものであると主張し、証人坂本哲夫の供述中には右主張に副う部分がある。しかし、原告が造粒品の粒子をより大きいものに変更することを求めてきたとすれば、本件請負契約の前提が大きく変わることになり、本件改造工事の設計の根幹にかかわることになるのであるから、右のような要求は、契約の当事者間で書面をもって確認されることが相当な性質のものであり、書面を作成しなかったとしても、原告の右申入れに至る経緯、申入れの時期、態様等の点等により、おのずからその外形的な裏付けとなる事実を伴うこととなる性質のものである。しかるに、前記供述部分は、原告の右申入れに至る経緯、申入れの時期、態様等の点があいまいであり、その信用性を裏付けるべき具体的事実を欠くというほかなく(《証拠省略》に「粒子が小の件」との記載があることのみをもってしては前記供述部分の信用性を裏付けるに足りない。)、昭和五五年三月の本件スプレードライヤーの試運転後に本件スプレードライヤーについて乾燥塔内の付着の問題等の解決のために種々の対策が講じられ、各種の工事が行われてきたという外形的な事実を補助参加人の立場から説明するために持ち出された理由であるとの感を否めない。証人坂本哲夫の前記供述部分を採用することはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

前記認定事実、《証拠省略》によれば、請求の原因4(瑕疵の存在)の事実を認めることができる。《証拠判断省略》

四  抗弁について

1  民法六三七条所定の除斥期間について

弁論の全趣旨によれば、被告が、原告に対し、本件改造工事の終了後遅くとも昭和五四年一〇月末日までには本件請負契約により被告の行うべきことと定められた改造工事を行って本件スプレードライヤーの占有を原告に引き渡した事実を認めることができるものの、《証拠省略》によれば、本件請負契約の当事者間では、本件スプレードライヤーの改造工事に原告の行うべき部分があり、その終了後に一個のシステムとして本件スプレードライヤーの試運転を行うことを合意していたことを認めることができる(右認定に反する証拠はない。)から、民法六三七条所定の除斥期間は、本件スプレードライヤーの試運転を行った昭和五五年三月八日を始期とするものというべきである。しかして、前記認定事実によれば、右同日以後一年経過以前に原告が本件スプレードライヤーの修補を請求したものと認められるから、民法六三七条所定の除斥期間の経過を理由とする被告の抗弁は理由がない。

2  商法五二二条所定の商事債権の消滅時効について

本件スプレードライヤーの試運転が行われた昭和五五年三月八日から起算して五年が経過したことは顕著な事実である。被告は、本訴において右時効を援用する旨を明らかにしているものというべきである。

しかし、昭和五五年三月の本件スプレードライヤーの試運転後、本件スプレードライヤーについて乾燥塔内の付着の問題等の解決のために種々の対策が講じられ、各種の工事が行われてきたこと、さらに、昭和五八年九月には補助参加人が本件スプレードライヤーをノズル式に改めるための工事の見積りを行い、被告が東京フェライト製造株式会社宛に見積書を提出していること、以上の事実が認められることは前記のとおりである。右事実に基づいて考えるときは、被告は本件スプレードライヤーの改造工事に瑕疵があることを認識し、その改善のために原告とともに努力を重ねていたものであり、昭和五八年九月には補助参加人が本件スプレードライヤーをノズル式に改めるための工事の見積りを行い、被告が東京フェライト製造株式会社宛に見積書を提出するにまで及んでいるのであるから、右改造工事を行うことについて合意が成立するに至らなかったとはいえ、それまでに至る被告の一連の行為により、原告が、被告において瑕疵の責任を取るものと信頼したことは明らかである。それにもかかわらず、被告が本件スプレードライヤーの試運転が行われた昭和五五年三月八日を起算日とする消滅時効を援用することを是認することは当事者間の公平に反するといわざるを得ず、被告は、右同日を起算日とする消滅時効については、その援用権を喪失したものというべきである。被告の抗弁は結局理由がない。

五  損害について

1  前記認定事実によれば、被告の瑕疵修補債務は社会通念上履行不能に陥ったものというべきである。

2  《証拠省略》を併せて考えれば、本件改造工事が本件請負契約の目的を達成することができなかったこと、原告が、本件請負契約に基づく本件改造工事の代金として金二四〇七万一九〇〇円を支払ったこと、以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

原告主張のその余の損害についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

よって、原告は、右金二四〇七万一九〇〇円の損害を受けたものというべきである。

3  請求の原因7の事実は当事者間に争いがない。

六  以上の事実によれば、原告の本訴請求は、被告に対し損害金二四〇七万一九〇〇円及びこれに対する催告の日の翌日である昭和六二年五月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 髙世三郎)

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